種を蒔く人

子どもの読書のことや、公共図書館、学校図書館の役割について斜め方向から考えます。

「絵本でさえあれば子どもに届くだろう」は間違いです

pulusualuha.or.jp

 

ストレス社会、親が心の病気を抱えているという家庭もあるだろう。

そういう家庭の子どもは、とても悩み、自分で自分を責めてしまうそうです。

 

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大人でも、自分の家族や友人が心の病気を抱えていれば、

「どう接したらいいだろう、どう励ませばいいのだろう」と、

とても悩むだろうに、ましてや、子どもです。

経験も未熟で、理解できるわけがありません。

本来なら親に支えてもらって守ってもらわないと不安な年頃なのに、かわいそうです。

このプロジェクトは、そんな子どもが苦しまないように、

身近な大人で支えようというものです。

特徴的なのは、絵本を使った活動という点です。

 

しかし、絵本といえど、子どもの年齢に応じ、理解の幅が違うので、

どの年代にでも相応しいとは言えないでしょう。

このサイトの説明にも、まずいちばん読んでもらいたいのは大人ということです。

 

そうだろう、そうだろう。まったく、そうだろう。

 

「心」などという形のないものを理解するのは、

子どもにとって、とてもとても難しいことです。

いちばん大切なのは、

こういう気持ちでいる子どもの心を大人が分かってあげて、

しっかり包み込んであげることだと思います。

 

 

子どもはどのようにして物事を掴んでいくのか。 

 

では、子どもはどのような順序で発達し、

物事や絵本や物語を掴み取っていくのでしょう。

 

赤ちゃん(天使の頃)

ことばを持たない赤ちゃんは、

感覚や運動から身の周りの事柄を掴んでいきます。

この時期必要なのは、

身内からの愛情のこもった声かけや子守唄などです。

赤ちゃんは、そのあたたかな声のひびきや心地よいリズムを快感と感じ、

他者との信頼感を得るそうです。

赤ちゃんへの声かけが大事なのはこういう理由だったんですね。

 

やがて、知っている物を指差して、

おぼつかないながらも、その名を繰り返し言うようになります。

そんな頃に、

覚えたての事を再確認するような絵本(事物絵本)を読んであげると、

赤ちゃんはとても喜びます。

ブックスタート*1で配布される絵本がそれです。

大抵、赤ちゃんが好きな食べ物の絵本ですが、

赤ちゃんは、もう、よだれを垂らしながらこういう絵本を楽しんで、

摘まんで食べる真似をしてみせますし、食べさせてもくれます。

赤ちゃんおはなし会では、みんな、「美味しい、美味しい」と、

たくさん食べます(笑)

  

くだもの (福音館の幼児絵本)

くだもの (福音館の幼児絵本)

 

 

 

赤ちゃん(怪獣時代)

 

寝ていたばかりの赤ちゃんも、

だんだん成長する過程で、毎日、毎日、

ジュンジュンといろいろなことを吸収しています。

真っ新な自分は、どんなことも新しい経験なわけで、

その驚きと感動はどれほどのものなのでしょうか。

自分も経験したはずなのに、

その歓びを覚えていないなんて、なんだかくやしい気がします。

そんな新しい毎日を重ねていくと、そのうち、

極々簡単な筋のあるおはなし絵本を味わえるようになります。

「赤ちゃん」なんて呼んでは失礼なくらいに、

小さいながらも立派なひとりの人です。

特に3歳頃になると、自分の意思が出てきて、

なんでも自分でやろうとします。

それも、上手にやりたいと思っています。

その時期の代表的な絵本はコレ☟ ですね。

 

しろくまちゃんのほっとけーき (こぐまちゃんえほん)

しろくまちゃんのほっとけーき (こぐまちゃんえほん)

 

 

しかし、まだまだ、

自分の視点から離れたような思考をすることはできないのです。

ですから、身の周りから題材をとった絵本が食いつきがよいのです。

 

 

園児 (第一次反抗期全開!でもって活発 )

 

そして、5、6歳頃になると、

それまで独り遊びだったのが集団で遊ぶようになり、

そろそろ文字を覚え始める時期です。

そして、生活習慣をしつける時期でもあります。

 

読書の方はといえば、ようやく入門というところですが、

自分で読むには至っていないため、誰か読んであげなくてはいけません。

するとお気に入りの絵本を、繰り返し繰り返し読まされるハメになります。

子どもは、「知ってる」ことが嬉しいのです。そして、安心するのです

気に入った絵本なら、すっかり覚えてしまい、

さも読んでいるかのようにして空読みをしてみせたりします。

文字に頼っていない脳は、記憶力がどんなによいのでしょうか?

実際のところは、私はよく知りません^^;

 

ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)

ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)

 

 

また、昔話も大好きで、

うちの子のお気に入りは、『かちかちやま』でした。

何度読まされたかというくらい読まされ、その度ケラケラ笑っていました。

大人が見ると残酷な話なのですが…

 

 

かちかちやま (日本傑作絵本シリーズ)

かちかちやま (日本傑作絵本シリーズ)

 

 

というのも、昔話は、いちいち悲惨な描写をしないで前へ前へと進みます。

そして子どもというのは、面白い部分だけ吸い上げながら楽しむことができます。

そのため、この起承転結のハッキリしたドラマを存分に味わうのです。

 

 

小学生低学年…あの頃は勤勉だった(遠い目)

 

さて、いよいよ小学校に入学すれば、

文字やことばを本格的に道具として使いこなす準備に入るのですが、

このころの子どもの勤勉さには、ほんとに驚かされるものがあります。

うちの子どもたちも、あの頃は、ほんとに勤勉でした。。。(遠い目)

 

新しいことを学ぶ意欲がとてもすごいのです。

それに、好奇心旺盛で、例えば男の子なら、

小石を見つければ蹴る以外に方法はなく、

死にかけた虫は観察しなくてはいられないのです。

 

 

それで、絵本もなんとか自分で読もうとするのですが、

ところがどっこい、まだ文字を追うのでいっぱいいっぱいで、

なかなか内容までは入っていません。

だから、やっぱり大人が読んであげなくてはいけません。

読んでもらえば、気持ちよく物語に入っていけ、

心置きなく楽しむことができるのです。

また、この時期に、そうやって心から物語を楽しむ経験を多く積むと、

子どもは読書を楽しいものと認識して、その世界を手離さないらしいですよ。

ただし、やはりまだ経験が浅いため、

目に見えるように具体的に描かれたものでないと、子どもはイメージ出来ません。

だから、現実の子どもの生活から想像がつくような物語が推奨されるのです。

 

やかまし村の子どもたち (岩波少年文庫(128))

やかまし村の子どもたち (岩波少年文庫(128))

 

 

 

 

抽象的なものを味わえるのはいつ頃から?

 

目に見えているものに、実は、影や奥行きがある事を知るのは、

早くても小学5年生の終わり頃だそうです。

その頃になると、心の奥の事もどうにか考えられるようになるそうです。

つまり、抽象的な内容が入ってきて、誰がどう考えたかを理解するということです。

すると、「ファンタジー」なんかをどんどん読んで楽しむようになります。

また、過去に実際に生きた人が様々な苦難を乗り越え成功した「伝記」なども、

十分味わえるようになります。

 

ライオンと魔女―ナルニア国ものがたり〈1〉 (岩波少年文庫)

ライオンと魔女―ナルニア国ものがたり〈1〉 (岩波少年文庫)

 

 

雪の写真家ベントレー

雪の写真家ベントレー

 

 

 

ここまで成長してきて、経験を積み重ねしてきて、

子どもは、ようやく抽象的な内容も分かるようになるんですね。

だから、たとえ絵本と言っても、目には見えない抽象的なものがテーマだと、

残念ながら子どもを素通りしてしまうのです。

 

 

子どもは心の動きまでは読みとれない 

 

例えば、梅雨の頃におはなし会でよく使われる

『おじさんのかさ』という絵本があります。

 

このおじさんは、お気に入りの傘を持っていて、

出かける時はいつも持って出かけます。

ところが、お気に入りすぎて傘を濡らすのが嫌なのです。

だから雨が降っても傘はさしません。

散歩の途中、雨が降っても、傘を濡らすのが嫌なので、

傘は持っているのに雨宿りをします。

あるとき、そこにちいさな男の子が雨宿りに来ました。

するとまたそこに、男の子の友達の小さな女の子がやってきて、

男の子はその傘に入れてもらって、二人で歌を歌いながら帰っていきました。

こんな歌です。

あめがふったら ポンポロロン
あめがふったら ピッチャンチャン

すると、おじさんもつられて歌ってみます。

楽しくなってきたおじさんは、とうとう、自分も傘をさしてみました。

そして、

あめがふったら ポンポロロン

あめがふったら ピッチャンチャン

と歌いながら、雨を楽しみながら傘をさして帰ったというお話です。

家に帰り着くと、おじさんの奥さんは、おじさんが傘をさしたことに驚きます。

家に戻ったおじさんは、ゆっくりお茶を飲みながら、

傘をさした時の感動を思い出して、歓びを噛み締めている様子で物語が終わります。

 

おじさんのかさ (講談社の創作絵本)

おじさんのかさ (講談社の創作絵本)

 

 

この絵本を実際、子ども(小学生低学年)に読み聞かせすると、

最初の方は、「どれどれ?」と前のめりで伺っている子どもたちが、

あめがふったら ポンポロロン
あめがふったら ピッチャンチャン

のところは、すっかり絵本の中に溶け込んで楽しげにしています。

でも、おじさんが、とうとう傘をさしたところは、さほど驚きもしません。

おじさんの気持ちがよく分からないのです。

読み手は、「おや?」と思いながら読み進めると、やっぱり

あめがふったら ポンポロロン

あめがふったら ピッチャンチャン

は楽しいらしく、また喜んで聞いています。

そして最後、

おじさんが雨に濡れた傘を嬉しそうに眺めるシーンは、ポカンとしています。

読み手の大人は、ちょっと拍子抜けします。

 

このように、大人が面白がる所と子どもが面白がる所は全然違うのです。

 

それでも、梅雨の定番絵本になっているのは、

子どもが面白い部分を吸い上げて、

自分を喜ばせる力に長けているからだと思います。

この絵本に心を寄せている読者は、実際は大人の方でしょう。

子どもが、この主人公と同化するのは、なかなか難しいです。

なにしろ、子どもたちがおじさんの年齢になるのは、

もっともっと先のことですからね(笑)

 

 

 結論

 

そんなわけなので、小学生までの子どもは、

たとえ絵があったとしても、抽象的な題材を扱う絵本を、

大人の望むようには受け取ってくれません。

だから、最初に紹介したプロジェクトの絵本も、

せいぜい中学生以上が対象になるのでしょう。

しかし、それにしても絵が暗すぎる気がします。

その経験がある子どもが読むと、余計に滅入っちゃう気がしないでもありません。

 

だから、たぶん本当は、

このような子どもたちも居ることを社会に知らせるのが目的なのでしょう。

学校なら、養護の先生あたりが職員室で職員向けに紹介するといい気がします。

他にも、子どもと関わる大人に対して紹介する機会があればいいなと思います。

 

 

では、当事者にはどうしてあげたらいいのだろう

 

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子どものための絵本は、あっけらかんと楽しいものであってほしいです。

親が病気という辛い境遇にある子どもには、特にそうであってほしいです。

親が不在も同然という状況は、帰る港がないようなもので、

その子の心はいつ難破してもおかしくない状態だと思います。

その不安な心を、温かくて楽しいもので埋めてあげたいものです。

 

そうやって、帰るはずの港の代わりに、

凍えた心を温め守ってくれるシェルターのような、

おおらかでわくわくするような物語を与えてあげたいと思うのです。

直面する辛い現実を抱えているからこそ、

その辛い現実の所から、一時的にでも脱出させて、

緊張をほぐし、温かな食べ物(物語)を与えてあげたいと思うのです。

そして、「決してひとりではない」ことを、物語を通して伝えてあげたいのです。

しかし、物語を読み慣れていない子どもが、

ひとりでその空想の世界に旅立つには勇気がいります。読む力も必要です。

だから、大人の案内役が必要なのです。

つまり、読んで聞かせてあげることです。

一緒に旅をすれば、仲間になれますもの。

 

何度も何度も、一緒に物語の世界を旅してあげて、

物語の中で主人公と一緒に成長することで、

へこたれない気持ちを鍛えてあげたいと思います。

そうこうしているうちに、

いずれ自分ひとりでも、その旅を味わえるようになるはずです。

 

 

 

子どもが欲しているものは、大人が欲するものとはちと違う

 

日本人は未だに、絵本を「絵が載った本」と勘違いしている傾向があります。

そして、「絵」さえ載っていれば、

子どもは理解できるだろうと思っています。これも勘違いです。

新たに出版される絵本も、情緒的な感傷的なものが多いので困ります。

あれは、たぶん、大人向けの絵本でしょう。

大人向けなら、大人向けの棚で売ってくれないと困ります。

大人が子どもに買ってあげてしまわないように。

 

絵本は、子どものものですが、大人から子どもに買い与えるものです。

だから話題になって沢山売れたりすると、

書店に平積みされ、またさらに売れてしまいます。

 

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買いにくる大人が、そういうのが子どもに向いていると思うからです。

そして、沢山売れると、

子どもの本にあまり詳しくない出版社は、

そういう絵本が売れると思って、またそういう絵本を作ってしまいます。

これでは、子どもが本当に欲する絵本が生まれにくいばかりか、

子どもにどんな絵本を与えればいいのか、一般の人たちに分かりづらくなります。

残念ながら、消費大国の日本では、この堂々巡りをしている最中かと思います。

 

 

せっかくなので最後に、この言葉を引用します。

 子どもたちはこう言う

「ぼくたちに本を下さい、翼をください

あなた方は力があって強いのですから、

ぼくたちがもっと遠くまで飛んでいけるように、

ぼくたちを助けてください。

魔法のお庭のまんなかに、真っ青な宮殿を建ててください。

月の光を浴びて散歩している仙女たちを見せてください。

ぼくたちは、学校で教わることはみんな覚えたいと思っています。

でも、どうかぼくたちに夢を残しておいてください。」*2

 

 

 

 

*1:1歳児検診などで行政から赤ちゃん絵本をプレゼントする

*2:ポール・アザール著『本・子ども・大人』p.6